2013年3月7日木曜日

なぜ正直者は得をするのか

 京都大学の新保守主義(と私が勝手に分類している)の藤井 聡先生の著書、「なぜ正直者は得をするのか--『損』と『得』のジレンマ」を読みました。
「自分さえよければそれでいい」とか、「ばれなきゃ大丈夫だよ」とか、「税金まともに払うなんて馬鹿だよ」とか、そういう発言に怪しからんと憤慨している人は多いと思います。そこまでひどくなくても、「利己的に行動するのは当然だ」という意見に、???の思いを抱いた人もいると思います。

 この本は、そういう考えの人や集団が敗北し、挙げ句の果てには滅び去るのだということを、心理学、経済学、倫理学や生物学から学問的に論じています。きわめて論理的に議論されていますが、ところどころに興味深い実例が出ています。

 古い例ですが、「共有地の悲劇」という英国で起きた事例があります。中世までは英国には「コモンズ」と呼ばれる共有の牧草地があり、羊飼いたちがそこに羊を放ち、飼育していました。ところが産業革命以後「コモンズ」を巡る状況に大きな変化が起きたそうです。産業革命によって新しい利己主義の羊飼いが出現し、自分の利益を最大化するために羊の頭数を増やしました。当然、その羊飼いの収益が上がりますので、他にも追従する人が出てきました。その結果、羊一頭当たりの牧草が不足し、一頭の羊から得られる利益が減りました。利己主義者は羊の数が多いので、それまでの利益は全体として確保しましたが、大多数の正直者の羊飼いは損害を受けたということです。

 どこかで聞いたことのある話ですね。民主党の岡田さんが地方に行ってタクシーに乗ったとき、運転手さんに、「このへんはシャッター街だな。」と言ったら、運転手さんが「イオンができましたからね。」と言われて返す言葉がなかったという話があります。

 こうした利己的行動は、新自由主義の教育を受けたことで正当化されるそうです。この本によると、経済学部の学生は利己的行動をとることが他学部の学生に比べて統計的に有意な差があるそうです。また、近年はそういう教育を受けた人が経済界やマスコミや教育界に多数いるので、国民の多数がそれで当たり前だと考えてしまう傾向にあるそうです。

 飯田史彦先生の「生きがいの創造」などのようにあの世の存在を認めた(仮定した)うえで説明すれば、なるほど人は問題にあたったときにどういう考えで解決にあたればよいのかがわかりますし、なぜ自分のことだけしか考えない人がよろしくないのかも説明できます。いっぽう、藤井先生のこの本は、この世で起きることをこの世の範囲で説明しきっているところに価値があると思います。